精巣の痛みについて
多くの男性は、一度は「キンタマ」や「睾丸」と呼ばれる部位、医学的には「精巣」と呼ばれる部分に痛みを感じた経験があると思います。
精巣は、子孫を残す上で欠かせない精子を生成する働きをしており、違和感や痛みがある場合は専門医による治療を必要とすることもあります。
些細な変化であっても、違和感や痛みなど気になることがあれば、一度当院までご相談ください。
精巣の痛みが起こる病気
精巣腫瘍・精巣がん
精巣に悪性腫瘍が発生しても痛みを感じることはほとんどありません。多くのケースでは、精巣の大きさの変化に気づき、受診することで発見されます。
精巣の形状やサイズ、組織の状態は、超音波検査によって把握できます。左右の精巣のサイズに差異を覚えた際は、当院までご相談ください。
精巣捻転
精巣に強い痛みが生じた場合、精巣へと繋がる動脈、静脈、神経が捻じれる「精巣捻転」の可能性があります。
10代の若い方に多く見られ、突発的な激しい痛みが生じます。痛みが生じた後に、むくみやしこりを伴うこともあります。
診察では、触診によって圧痛の有無を調べ、超音波検査によって血流状態を評価します。また、精巣の大きさや腫れについても確認します。
捻転の治療においては、陰嚢の皮膚を切開し、捻じれた精巣を直接元の場所に戻します。
精巣捻転を放置すると、血流が遮断され、精巣の壊死に繋がる恐れがあります。捻転発生から6時間以内に正常な位置に戻さなければ、精巣機能の喪失に繋がるリスクがあるため、精巣捻転の可能性があればすぐに当院までご相談ください。
精巣上体炎
精巣上体は、精巣の頂部に位置する帽子状の器官で、ここに炎症が発生する状態を精巣上体炎と呼びます。原因としては、カテーテル挿入に伴うものや、性感染症であるクラミジア尿道炎など多岐にわたり、原因が特定できない症例も存在します。
精巣の痛みは片側のみに生じることがほとんどで、発熱や腫れを伴うこともあります。なお、稀に両側の精巣上体に炎症が認められることもあります。
精巣上体炎が疑われる場合、尿検査で白血球の増加が確認されます。治療は、鎮痛薬と抗菌薬を併用して行い、痛みが落ち着くまでには1週間ほどかかります。なお、腫れなどの症状は、数ヶ月かけて徐々に改善していき、陰嚢を冷却することで痛みが軽減される場合があります。
精索静脈瘤
精索静脈瘤とは、精巣を取り囲む静脈に発生する瘤(こぶ)のことです。多くは左側に発症し、陰嚢に不快感や痛みが生じます。締め付けられるような感覚や、鼠径部の痛み、歩行時の痛みなどが現れることがあります。痛みは軽いですが、静脈瘤の形成により精巣の温度が上がり、男性不妊に繋がる恐れがあります。
将来的に妊娠を希望している場合は、手術による治療を要するため、一度ご相談ください。
精巣損傷・精巣外傷
精巣損傷・精巣外傷は、外部からの力によって精巣が損傷した状態です。原因の多くは、運動中の事故や交通事故などです。出血がなく、精巣を覆う膜に断裂がない場合は、経過観察となります。しかし、出血が長引く場合や、膜に断裂が認められる場合には、縫合手術などの外科的処置が必要となります。
陰嚢水腫
陰嚢水腫は、陰嚢内に液体が貯留して腫れる病気です。痛みは認められないことが多いですが、放置すると次第に腫れが増大します。
検査では、悪性腫瘍との鑑別のため、超音波検査などを実施して慎重に評価することが必要です。治療としては、手術だけでなく、陰嚢穿刺による内部液体の排出も選択できますが、再発しやすいという懸念があります。穿刺を複数回行うと出血や感染が起こりやすくなるため、再発を繰り返す場合は手術を推奨します。
ムンプスウイルスによる精巣炎
ムンプスウイルスは、一般に「おたふくかぜ」として知られる流行性耳下腺炎の原因となるウイルスです。このウイルスに感染すると、主に耳下腺の腫れが起こりますが、脳炎・髄膜炎・精巣炎・卵巣炎などの合併症を引き起こすことがあります。
ムンプスウイルスによる精巣の炎症は、ムンプス精巣炎と呼ばれます。子どもよりも成人男性が発症しやすく、成人男性がムンプスウイルスに感染すると、精巣炎を合併する確率は20~30%程度です。耳下腺の腫れが起こってから1週間ほど経って精巣炎が起こることが多いですが、耳下腺の腫れが見られず、精巣炎だけが起こることもあります。
ムンプス精巣炎の症状は、急激な精巣の腫れや痛み、発熱などがあり、精巣上体炎を併発することも多いです。治療は、主に痛みを抑えるための鎮痛薬の服用や、患部の冷却、安静などの対症療法が中心となります。
精巣炎が片側のみで発症した場合は10%、両側に発症した場合は30%程度の確率で男性不妊に繋がる恐れがあるとされています。