腰痛・背部痛について
腰痛や背部痛のほとんどは、骨、筋肉、腱などの整形外科領域の病気に起因すると言われています。
しかし、その他の重大な病気が隠れている場合もあり、注意が必要です。例えば、大動脈瘤破裂などの血管疾患、泌尿器科疾患、消化器疾患、肺疾患などが原因となることもあります。
したがって、「腰痛・背部痛=整形外科疾患」と安易に判断することは危険です。
腰痛・背部痛の原因
尿管結石症
片側の腰に突然痛みが生じるのは、尿管結石症の特徴的な症状です。別名「痛みの王様」とも称されるように、体位や体動に関わらず痛みが持続します。耐え難いほどの激しい痛みを伴いますが、多くの場合、24時間以内に痛みが軽減します。また、残尿感、血尿、頻尿などの症状を伴い、苦痛を訴える患者様も少なくありません。
治療では、水分補給と保存療法を併用し、自然排石を促します。しかし、保存療法で改善しない場合は、体外衝撃波結石破砕術(ESWL)や内視鏡的治療などを行うこともあります。
水腎症
水腎症は、何かしらの原因により尿管が閉塞して尿の流れが停滞することで、腎盂や尿管内に尿が貯留し、拡張してしまう状態です。尿管狭窄・尿管結石・前立腺がん・尿管がん・膀胱がん・大腸がんなどが代表的な原因です。
症状の程度は個人差が大きく、痛みが起こらない軽症例から、腎臓の著しい拡張に伴い片側の腰痛を訴える重症例まで様々です。激しい痛みがある場合も、腎盂拡張に体が慣れてしまい、痛みが持続しないこともありますが、放置すると腎機能低下を招くため、なるべく早めに当院までご相談ください。まずは、原因疾患の治療を行うことが重要です。
前立腺がん
前立腺がんは、2025年には日本人男性におけるがん罹患数で最多となる可能性があると考えられている病気です。米国では既に、男性のがん罹患数で最多となっています。前立腺がんの罹患数の増加は、「食生活の欧米化」が主な原因として挙げられますが、PSA検査の普及により、スクリーニングの精度が向上したことも要因の1つと考えられます。
前立腺がんは骨転移を起こしやすいがんの1つであり、進行すると腰痛が起こる場合があります。腰骨の痛みがある場合は、年齢や頻尿などの他の症状を考慮し、前立腺がんのリスクを検討することが大切です。前立腺がんの治療としては、ホルモン療法・PSA監視療法・放射線療法・去勢術・ロボット手術などがあります。
早期発見・早期治療が大切ですので、50歳を超えた方は、自治体の検診や人間ドックなどでPSA検査を受けましょう。
逆流性食道炎
逆流性食道炎は、下部食道括約筋の弛緩や胃酸の分泌増加によって起こる病気です。げっぷや胸やけ、心窩部痛(みぞおちの痛み)、胃酸の逆流などが主な症状です。また、胃腸の血流や機能低下により、食後に背中や肩の痛みを伴うこともあります。
まずは胃酸分泌抑制薬を使用し、経過を観察します。服用を継続しても食後の背部痛や心窩部痛が改善しない場合は、消化器内科で胃カメラ検査を受けましょう。
膵炎
膵臓は胃の背面に位置する臓器で、炎症を起こすと背部痛を引き起こすことがあります。過剰な飲酒が膵炎の代表的な原因で、急性膵炎と慢性膵炎の2種類に大別されます。放置すると最悪の場合命にかかわることもあるため、注意が必要です。特に、飲酒習慣があり、背部痛を自覚する方は、速やかに医療機関を受診して膵炎の有無を確認しましょう。診断には、超音波検査などの画像検査が必要です。
肺疾患
肺の疾患も背部痛の原因となることがあります。特に、肺に穴が開く気胸では背部痛を伴うことがよくあります。気胸の初期症状としては、胸痛や咳、呼吸困難、鎖骨や肩周辺の違和感などがあります。これらの症状に加え、背部痛が現れます。穴が小さければ自然治癒することもあるため、経過を観察する場合もあります。しかし、穴が大きい場合は自然治癒が難しく、空気漏れが持続するため、手術による閉鎖が必要となります。肺疾患の診断には、CT検査やレントゲン検査が有効です。
整形外科的な疾患
腰痛や背部痛の最も一般的な原因は、整形外科的な疾患です。加齢に伴い骨密度が低下して骨粗鬆症を発症すると、骨への負担が増大して痛みが起こる場合があります。さらに進行すると、「背中が曲がる」「背骨が変形して圧迫骨折する」「転んで骨折する」などのリスクが高まります。また、椎間板ヘルニアやぎっくり腰(腰椎捻挫)、変形性腰椎症なども腰痛・背部痛を引き起こします。椎間板ヘルニアのように手術を要する病気もあるため、放置せず専門医に相談しましょう。
腰痛・背部痛の検査
上述のように、腰痛・背部痛の原因は多岐にわたります。
以下のような検査で原因を迅速に特定し、患者様それぞれに応じた治療を行うことが必要です。
尿検査
泌尿器疾患の可能性があれば、尿検査が有効となります。尿中に白血球や赤血球が検出された場合、腎盂腎炎や尿路結石などの泌尿器疾患が疑われます。
腎盂腎炎の場合、尿検査によって細菌の有無や種類を特定することができます。また、尿中のがん細胞の有無を確かめることで、がんのリスクを評価することが可能です。
血液検査
整形外科的な病気では、顕著な炎症反応は認められません。しかし、泌尿器科系、消化器系、血管系の病気が疑われる場合は、何らかの異常値が認められます。また、前立腺がんのリスクが高い場合は、PSA検査を実施します。
膵炎のリスクが高い場合は、アミラーゼなどの酵素値の上昇の有無を確認します。
超音波検査
人体に無害な超音波を利用した検査です。安全性に優れており、多岐にわたる情報を取得することができます。
膵臓、腎臓、尿管、前立腺など、様々な泌尿器疾患の診断に役立ちます。
レントゲン検査
短時間で撮影可能な検査です。放射線被ばくのリスクが低く、安全に様々な情報を取得することが可能です。尿管結石の診断に際しても有効です。
レントゲン検査で異常が認められた場合は、より詳しい情報を得るために、CT検査などを追加で行うことがあります。CT検査を行う場合は、提携先の高度医療機関にお繋ぎします。
CT検査
わずかな放射線被ばくのリスクを伴いますが、詳細な情報を取得することが可能な画像検査です。CT画像によって、尿管結石の位置や大きさ、水腎症における腎盂や尿管の状態、肺や膵臓の状態、大動脈の太さ、前立腺がんの骨転移などを調べることができます。CT検査を行う場合は、提携先の高度医療機関にお繋ぎします。
腰痛・背部痛が起こっている場合
腰痛や背部痛は泌尿器の疾患によって生じている場合もあります。「腰痛・背部痛=整形外科」と自己判断せず、当院までご相談ください。これらの痛みは「身体が発する重要な警告信号」ですので、無視せず早期発見・早期治療に努めましょう。